パーソンセンタードケアとは、認知症をもつ人をひとりの「人」として尊重し、その人の視点や立場に立って理解し、ケアを行おうとする考え方である。英国のトム・キットウッドが提唱し、業務中心のケアではなく、認知症の人を中心に考えるケアとして、世界的に広がっている。
パーソンフッド(その人らしさ)を中心的な概念としてとらえようとした背景について、キットウッドの言葉を基にまとめてみる。
知性が優先され、情緒や感情はわずかな役割しか果たさないと捉える文化的伝統では、自律性や合理的能力を過大に評価してしまう。すると、力のないものは特に価値を低められ、その人らしさが広く無視されるという「人間疎外」を引き起こしやすくなる。多くの社会で、高齢者を低く評価する風潮があり、特に認知症の人は極端な高齢者差別にさらされる。これは、社会の防衛反応、つまり無意識にもっている年をとることや、認知症になることへの不安の反応として、自分たちの世界から高齢者や認知症の人を排除しようとする悪性の社会心理といえる。このような現状に対してキットウッドは、その人らしさは、感情、情緒、関係の中で生きる能力によって強く結びつけられるべきであり、そのようなケアが提供される場では、認知症の人はきわめて有能になる場面があることを示した。
パーソンセンタードケアは、認知症ケアにおいて広く知られるようになったが、認知症に限らず広く用いられる概念である。
キットウッドは、よりよいケアをめざすために、「相互行為」について論じている。介護の世界では、人材不足が話題になりがちだが、利用者に対する職員の比率(職員比率)が高い施設であっても、基本的な介護をしながら職員同士が話をしたり、「業務的な」仕事を探す傾向があるという。
職員の数や時間に余裕があっても、業務をこなすことを優先する限りは、認知症の人とのよい関係性は築けない。それどころか、認知症の人に関心を持たずにケアすると、認知症の人は「受け入れ」ではなく「疎外感」を感じてしまうかもしれない。ケアは一方的に提供するものではなく、お互いに影響しあっていることを意識するのが大事である。
